NOTES
しょうぶ学園
共通の知人を介して知り合った、陶芸家の野口悦士さんの工房を訪ねて鹿児島に向かった。鹿児島は今回が初めて──という話をすると、「それなら」と、野口さんが好きな場所をいくつか案内してくれた。どこも印象に残っているけれど、いちばん強く心に残ったのが、しょうぶ学園だった。
しょうぶ学園は、もともとは障がいのある方のための福祉施設として始まり、そこにアートとクラフトという軸を据え、制作を通して自己表現を実現していく取り組みを続けている場所だ。敷地内には複数の建物があり、陶芸、絵画、木工などジャンルごとに工房が分かれている。作品を発表するためのギャラリーや舞台もあり、園の中で制作された作品はショップで購入することもできる。
アートと福祉を掛け合わせた取り組み自体は、おそらく珍しいものではない。ただ、正直に言えば、見せ方がうまくいかず、どこか「福祉」という文脈に引っ張られてしまい、作品そのものよりも見る側に同情や配慮が求められてしまうケースも少なくない。その点でしょうぶ学園は、作品が純粋に強かった。面白い、という言葉では少し足りない気もするが、色の使い方や線の引き方がこちらの想像を軽く超えてきて、「あ、こういう手があったのか」と何度も思わされた。才能が、説明抜きでそのまま立ち上がっている感じ。
建物の壁や柱にも、落書きのような自由な表現があちこちに描かれている。ただ不思議と散らかっては見えず、素材の使い方や空間全体のトーンには一貫性があり、きっと背後に優れたアートディレクターが裏で全体を統括しているのだろうな、と思った。ところが職員の方に話を聞くと、そういう役割の人はいないという。デザインの知識を持った人は多少いるものの、多くは専門家ではなく、制作前後のサポートや実務的な部分を手伝う程度に留めているらしい。
作家さんの表現が爆発する一歩手前で、必要以上に手を出さず、放り出しもしない。あとは、とにかく作家さんに自由に取り組んでもらう。その距離感が、とても絶妙なのだと思う。 園内のあちこちに描かれた自由な線や色を眺めながら、創作って、そんなに肩肘張らなくてもいいのかもしれないな、と思った。「自由にやっていい」と言われるのは意外と難しいけれど、勢いでつくった時点では多少荒くても、そのあとに整える工程があれば、ちゃんと形になる。動物的な衝動と、人間的な理性のあいだ。そのくらいの場所で手を動かすのが、いちばん健やかなのかもしれない。

